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十一 - 17

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「こんな噺(はなし)もあるよ」とだまってる事の嫌(きらい)な迷亭君が云った。「カーライルが始めて女皇(じょこう)に謁した時、宮廷の礼に嫻(なら)わぬ変物(へんぶつ)の事だから、先生突然どうですと云いながら、どさりと椅子へ腰をおろした。ところが女皇の後(うし)ろに立っていた大勢の侍従や官女がみんなくすくす笑い出した――出したのではない、出そうとしたのさ、すると女皇が後ろを向いて、ちょっと何か相図をしたら、多勢(おおぜい)の侍従官女がいつの間(ま)にかみんな椅子へ腰をかけて、カーライルは面目を失わなかったと云うんだが随分御念の入った親切もあったもんだ」

「カーライルの事なら、みんなが立ってても平気だったかも知れませんよ」と寒月君が短評を試みた。

「親切の方の自覚心はまあいいがね」と独仙君は進行する。「自覚心があるだけ親切をするにも骨が折れる訳になる。気の毒な事さ。文明が進むに従って殺伐の気がなくなる、個人と個人の交際がおだやかになるなどと普通云うが大間違いさ。こんなに自覚心が強くって、どうしておだやかになれるものか。なるほどちょっと見るとごくしずかで無事なようだが、御互の間は非常に苦しいのさ。ちょうど相撲が土俵の真中で四(よ)つに組んで動かないようなものだろう。はたから見ると平穏至極だが当人の腹は波を打っているじゃないか」

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