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十一 - 23

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「今のはね、御主人の御考ではないですよ。十六世紀のナッシ君の説ですから御安心なさい」

「存じません」と妻君は遠くで簡単な返事をした。寒月君はくすくすと笑った。

「私も存じませんで失礼しましたアハハハハ」と迷亭君は遠慮なく笑ってると、門口(かどぐち)をあらあらしくあけて、頼むとも、御免とも云わず、大きな足音がしたと思ったら、座敷の唐紙が乱暴にあいて、多々良三平(たたらさんぺい)君の顔がその間からあらわれた。

三平君今日はいつに似ず、真白なシャツに卸立(おろした)てのフロックを着て、すでに幾分か相場(そうば)を狂わせてる上へ、右の手へ重そうに下げた四本の麦酒(ビール)を縄ぐるみ、鰹節(かつぶし)の傍(そば)へ置くと同時に挨拶もせず、どっかと腰を下ろして、かつ膝を崩したのは目覚(めざま)しい武者振(むしゃぶり)である。

「先生胃病は近来いいですか。こうやって、うちにばかりいなさるから、いかんたい」

「まだ悪いとも何ともいやしない」

「いわんばってんが、顔色はよかなかごたる。先生顔色が黄(きい)ですばい。近頃は釣がいいです。品川から舟を一艘雇うて――私はこの前の日曜に行きました」

「何か釣れたかい」

「何も釣れません」

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