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十一 - 26

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陶然とはこんな事を云うのだろうと思いながら、あてもなく、そこかしこと散歩するような、しないような心持でしまりのない足をいい加減に運ばせてゆくと、何だかしきりに眠い。寝ているのだか、あるいてるのだか判然しない。眼はあけるつもりだが重い事夥(おびただ)しい。こうなればそれまでだ。海だろうが、山だろうが驚ろかないんだと、前足をぐにゃりと前へ出したと思う途端ぼちゃんと音がして、はっと云ううち、――やられた。どうやられたのか考える間(ま)がない。ただやられたなと気がつくか、つかないのにあとは滅茶苦茶になってしまった。

我に帰ったときは水の上に浮いている。苦しいから爪でもって矢鱈(やたら)に掻(か)いたが、掻けるものは水ばかりで、掻くとすぐもぐってしまう。仕方がないから後足(あとあし)で飛び上っておいて、前足で掻いたら、がりりと音がしてわずかに手応(てごたえ)があった。ようやく頭だけ浮くからどこだろうと見廻わすと、吾輩は大きな甕(かめ)の中に落ちている。この甕(かめ)は夏まで水葵(みずあおい)と称する水草(みずくさ)が茂っていたがその後烏の勘公が来て葵を食い尽した上に行水(ぎょうずい)を使う。行水を使えば水が減る。減れば来なくなる。近来は大分(だいぶ)減って烏が見えないなと先刻(さっき)思ったが、吾輩自身が烏の代りにこんな所で行水を使おうなどとは思いも寄らなかった。

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