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九 - 8

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「いや非常な人で、それでその人が皆わしをじろじろ見るので――どうも近来は人間が物見高くなったようでがすな。昔(むか)しはあんなではなかったが」

「ええ、さよう、昔はそんなではなかったですな」と老人らしい事を云う。これはあながち主人が知(し)っ高振(たかぶ)りをした訳ではない。ただ朦朧(もうろう)たる頭脳から好い加減に流れ出す言語と見れば差(さ)し支(つか)えない。

「それにな。皆この甲割(かぶとわ)りへ目を着けるので」

「その鉄扇は大分(だいぶ)重いものでございましょう」

「苦沙弥君、ちょっと持って見たまえ。なかなか重いよ。伯父さん持たして御覧なさい」

老人は重たそうに取り上げて「失礼でがすが」と主人に渡す。京都の黒谷(くろだに)で参詣人(さんけいにん)が蓮生坊(れんしょうぼう)の太刀(たち)を戴(いただ)くようなかたで、苦沙弥先生しばらく持っていたが「なるほど」と云ったまま老人に返却した。

「みんながこれを鉄扇鉄扇と云うが、これは甲割(かぶとわり)と称(とな)えて鉄扇とはまるで別物で……」

「へえ、何にしたものでございましょう」

「兜を割るので、――敵の目がくらむ所を撃(う)ちとったものでがす。楠正成(くすのきまさしげ)時代から用いたようで……」

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